ゾンビ屋れい也 シキ編4
昨夜の一件で疲労し、れい也は昼近くまで爆睡する。
長く寝たからか、寝ざめは良い。
手首は、まだ百合川に掴まれたままだった。
「・・・一晩中、じっとしてたのか」
ただ眠っているだけの相手の傍にいるなんて、退屈すぎる時間だっただろう。
大胆な行為をしたことで、主従関係が強まったのだろうか。
ぼんやりと過ごしていたかったが、れい也は急激な寒気を感じて開眼した。
屋敷の外に、悪しき気配を感じる。
昨日の敵なんて生ぬるいくらいの禍々しさを。
「お早うございます、れい也さん。おかげでもう少しで宝石を破壊でき・・・」
女性の言葉に答える余裕もなく、れい也は険しい面持ちで外へ出た。
まだ距離は遠いけれど、はっきりと感じる。
第六感が、危険因子が近付いてくると警告する。
「れ、れい也さん」
「今日は出てこないで下さい。・・・正直、守り切れるか自信がないので」
女性が追いかけてきたが、れい也の忠告に従って後ずさる。
幾多の脅威にさらされる内に危険を察しやすくなったのだろう、女性は屋敷へ戻る。
恐らく最後の大ボス、外へ出たれい也はその相手と対峙した。
「知った気配がしやがると思えば、邪魔してんのはやっぱりてめえか、れい也ァ!」
「邪悪な気配がすると思ったら、やっぱりお前か、リルケ!」
二人の間に、火花が散る。
百合川が大人しく見えるくらいの猟奇的な目、高圧的な態度は昔のままだ。
背に背負う大剣は、気に食わない者を容赦なく真っ二つにしてきたことだろう。
そして、次の標的はこの弟だ。
「宝石を愛でる趣味があるなんて、いつの間にそんな高尚な趣味を持ったんだ?」
「ハッ、あの宝石は欲望と血みどろの中に浸されたいわくつきだ。
手に入れればゾンビ使いの力は増大、そして俺様が世界の王になるんだよ!」
何とも子供じみた理由だが、この男なら実行するだろう。
欲しい物は力強くで手に入れる。
所有権、なんて難しい言葉は理解しようとしないのは以前からだった。
「まあ、俺様も鬼じゃない、大人しく逃げ帰ればかわいがってやるぜぇ?昔みたいにな」
昔のように、その言葉がれい也のトラウマをよみがえらせる。
ゾンビを作ることに飽きた兄の玩具にされていた幼少時代を。
「百合川!」
れい也は百合川を呼び出し、臨戦態勢に入る。
「そうこなくっちゃなァ!来い、ホーリーミトラス!」
リルケが星の描かれた手を天に掲げると、地響きが鳴る。
絶望が、地の底から這いずり現れてくる。
それは何十、何百ものゾンビを組み合わせたおぞましい怪物。
後ずさりそうになる足を、その場へ踏みとどまらせて強い眼差しで見据える。
れい也の気持ちとシンクロするよう、百合川は巨大なゾンビの塊へ向かって駆けた。
塊からボタボタとゾンビが落ちてきて、百合川を取り囲む。
百合川は敵の足を削ぎ、首を跳ね、胴体を切り分ける。
いずれ数は減ると思いきや、一体倒しても塊へ戻ればまた元通りになるようだった。
「たった一体で、俺様のゾンビが倒せると思ってんのか?」
「ああ、そうでなきゃとっくに逃げてるさ」
これは、もう意地だ。
報酬は惜しいが自分の命はもっと惜しくても
百合川を急速に修復させる行為までしたのだ、手ぶらで帰るなんてありえない。
何より、この兄の自信満々な顔を歪ませてやりたかった。
きりがないと判断した百合川は、ゾンビの塊の腕を駆け上がる。
そして、脳天から落下する速度で、一気に顔の部分を切り裂いた。
ゾンビの一部がはがれ、地面に落下する。
だが、真っ二つにしてもうぞうぞと動き、塊へ戻ってしまう。
「学習しねえ奴だな、俺様のゾンビはそこらのやわな奴とは違うんだよ!」
塊の中の一体が銃を構え、マシンガンを百合川へ向けて放つ。
百合川は跳躍してとっさにかわすが、数発被弾し腹部に穴が空いた。
続けて、他のゾンビも様々な銃撃を繰り出す。
数発はナイフで弾き飛ばすが、全てかわすのは困難だ。
足に、腕に、胸部に、被弾個所が増えていく。
蜂の巣にされるのは、時間の問題だった。
なす術のない百合川を見ていると、思わず目を背けたくなる。
だが、そうすれば次は自分の番だ。
もてあそぶように痛めつけられ、終いには地獄に落とされるだろう。
それよりも、この兄に、自分のゾンビが、百合川が傷つけられている。
今や、自分の身の心配よりも、怒りの方が強まってきていた。
「・・・百合川、戻れ」
蜂の巣にされる前に、百合川は地獄へ戻る。
「何だ?諦めて道を開ける気になったかよ」
れい也は、心頭滅却するように目を閉じる。
ここから先は、かなりの覚悟がいること。
それでも、百合川も、自分も、ボロボロにされるよりはましだ。
れい也は小型ナイフを取り出し、自分の紋章に傷をつける。
「あ?何やって・・・」
「魔王サタンよ!地獄に戻りし我の僕に偉大なる力を与えよ!この主人の幾程の命を持って!」
突然雲行きが怪しくなり、雷鳴が鳴り響く。
れい也が高く手を上げると、黒い雷がその身を打った。
あまりの光に、リルケは一瞬目を逸らす。
次にれい也を見たとき、隣には百合川が佇んでいた。
銃弾を受けたはずの体は傷一つついていない。
目は白目をむいていいて、真っ直ぐに敵を見据える雰囲気はさっきとはまるで違う。
「何したが知らねえが、潰してやるよ!」
巨大なゾンビが腕を振り上げ、百合川めがけて勢いよく殴り掛かる。
百合川はナイフで応戦しようと構え、敵に向かって駆ける。
さっきの二の舞にはならない、取り出したナイフは、黒き雷を帯びていた。
巨大な拳に、ナイフが突き刺さる。
とたんに雷がほとばしり、ゾンビの腕を真っ黒に焦がしていた。
「オオォォォォ!」
肩口から身がなくなり、断末魔がこだまする。
バランスを崩したところで、ナイフは足へ突き刺さる。
その部位へも黒き光がほとばしり、根元から黒焦げにした。
巨大な体は、リルケの方へ崩れていく。
「は?ちょ、待・・・」
あまりの出来事にあっけにとられ、リルケの反応が遅れる。
刃物や拳銃を持ったゾンビ達が視界を覆い、一気に潰された。
しばらく様子を見ていると、ゾンビがふっと消える。
打ち所が悪かったのか、リルケは脇腹から血を流しふらふらと立ち上がった。
「テ、テメェ、一体何を・・・」
「ゾンビにとって、一番力を強められるもの・・・僕の寿命を捧げたんだ」
その代償は数年か、もしかしたら数十年かもしれない。
玩具にされて殺されるくらいなら、老衰の方がましだった。
リルケは、気に食わなさそうにれい也を見る。
弟に打ちのめされたこともあるが、最も気に入らないのはその命を百合川なんていうゾンビに捧げたことだった。
傷は深く、対峙しているだけでも血がだくだくと流れ体力が奪われていく。
気を失う前にリルケは再び手を掲げ、翼竜のゾンビを召喚した。
まだやる気かと、百合川はナイフを構える。
「今日のところは引いてやる。けどな、俺様に宝石を渡さなかったこと、きっと後悔するぜ・・・!」
リルケは翼竜の足に捕まり、空へ飛ぶ。
完全に見えなくなったのを確認すると、れい也は大きく息を吐いた。
緊張の糸が切れ、膝から崩れ落ちる。
とっさに百合川が駆け寄り、体を支えた。
自分の命を与える禁術の欠点は、戦闘が終わったとみなされるとひどい疲労感に襲われること。
体に全く力が入らない。
まるで、今すぐ事切れてしまうかのようだ。
「僕が死んだら・・・同じ所へ逝けるといいな・・・シキ・・・」
れい也は、ぐったりとシキに体を預ける。
意識は途切れ、何も感じなくなった。
目覚めたのは、見慣れた自分の部屋。
屋敷はまるで幻だったかのように、普通のベッドの上で寝ていた。
違う点は、枕元にある紙袋。
中にはきっちり三百万円入っていて、幻ではなかったのだと実感した。
そして、自分の寿命が減ったことも。
「百合川」
小声で呼んでも、すぐ百合川が現れる。
もう雷は帯びておらず、目もいつも通りだ。
だが、百合川が一歩歩もうとしたとたん、ぐらりと体が傾きベッドの方へ倒れ込んだ。
とっさに、れい也がその体を抱き留める。
力を無理に引き出したことで負担がかかるのは、召喚士だけではない。
労う気持ちで、れい也は百合川を優しく抱く。
「ありがとうな、百合川・・・お前がいたから、僕は生きていられる」
百合川はもぞもぞと動き、れい也を至近距離で見詰める。
熱視線を注がれるのは慣れていなくて、思わず視線を逸らす。
すると、ふいに百合川はれい也の口端に唇を触れさせた。
修復時のことがフラッシュバックして、心音がはっきりと鳴る。
「・・・そうか、傷付いてなくても、消耗してるんだもんな。・・・修復、したいのか?」
答える代わりに、百合川はれい也の唇を覆う。
前の一件で多少慣れたのか、れい也は取り乱すことなく目を閉じた。
百合川はすぐに隙間を割り、自身をれい也の中へ挿し入れる。
柔い舌へ触れ、お互いの存在を感じ取っているかのようだ。
じっくりと絡ませ、唾液が入り交じる。
口内で動かされると、れい也はたまにくぐもった声を発するが拒みはしなかった。
以前は、離れては重なり、その液を飲む繰り返しだったが、今回の繋がりはやけに長い。
1回を十分に味わうかのように、激しくはなくとも濃厚だ。
修復のためにやっていること、そのはずだけれど
深く重なっているこの状況は、ただ求め合っているような気がして、だんだんとれい也を落ち着かなくさせた。
数分後、ようやく百合川が身を離す。
やっとまともに呼吸ができるようになり、れい也は吐息をついた。
また、覆われるだろうかと思ったが、百合川は動かない。
「・・・そうか、唾液くらいじゃ足りないのか。なら、血の方が濃くていいか」
そっちの方が羞恥心もなくていいと、れい也は百合川のナイフへ手を伸ばす。
だが、瞬時に手首を掴まれ阻まれた。
「血は嫌なのか?でも、他に液体なんて・・・」
言いかけたところで、百合川の膝が下腹部に当たる。
やや強めに押し付けられ、ぎくりとした。
「た、確かに、そこは、その・・・そうだけど、思いもしなかった、そんな」
うろたえていると、百合川はれい也のズボンの留め金を外す。
ここが、跳ね除ける最後のチャンスだったが、三百万は百合川の働きがあったからこそ手に入ったのだ。
今度は、自分が要求を受け入れる番だ。
れい也は恥じらいをぐっと堪えて、百合川の好きにさせる。
抵抗されないとわかると、百合川はズボンをずらし、下着の中へ手を入れた。
「っ・・・」
中にある、中心部分に百合川の指が触れる。
まだ反応してはいなかったが、冷たい掌に包まれるとどくりと脈動した。
はらはらしていると、百合川は再びれい也に唇を寄せる。
口付け、挿し入れ、舌を絡ませる。
同時に、下肢を包んでいる掌をなだらかに動かした。
「っ、んん・・・」
敏感な箇所に触れられたままで、刺激が強く感じられる。
さっきのように口内を弄られただけで、心音はやけに強く反応していた。
何より、うまく息継ぎができなくて呼吸が荒くなる。
それでも、百合川はれい也と絡み合う。
下肢の手に伝わる鼓動は、徐々に強まっていくようだった。
やがて、下肢の衣服がきつくなるくらい熱を帯びる。
それは百合川の手に収められたまま、外へさらけ出された。
十分に熱を帯びたところで、百合川は唇を離す。
開放されたが、れい也はとても百合川を直視できない。
相手は信頼している者と言えども、あらぬところを掴まれたまま平然とはできなかった。
百合川は下肢の手も離すと、身を下げていく。
何をする気か察したれい也は、思わず顔を逸らした。
飲むためには確かにそうするしかないけれど、動揺せずにはいられない。
百合川はれい也のものに近付き、それをゆっくりと舐めた。
「ぁ、っ・・・」
さっきまで口内にあった感触が、性器をなぞる。
高揚感で張り詰めているそれは、柔くて湿った舌に悦んでいるようだった。
根元の周りから中心部分へと、百合川はゆっくりと這わせていく。
「うぅ、ぅ・・・」
れい也の羞恥心が声を殺すが、その分息苦しくなる。
下肢を這う感触はじりじりと動き、先端までたどり着く。
「あ・・・!」
先の部分に触れられたとたん、高い声が出てしまった。
そんな反応をしたものだから、百合川は先端を咥え、丁寧に舐めていく。
「っ、あぁっ・・・」
自分でも初めて自覚した弱い部分を責められ、反応が抑えきれない。
軽く触れられるだけでも震えてしまうのに、唇で挟まれている感覚も伴う。
それが、自分のあられもない個所が百合川の口内にあるのだと再認識させる。
心臓はとっくに落ち着きをなくし、強く強く鳴っていた。
百合川は、れい也を徐々に深く咥え込んでいく。
その身の全てが欲しいと、そう訴えるように。
全体が百合川の中におさまったときには、れい也の目は悦の感覚に支配されるようにおぼろげになっていた。
激しくはない愛撫でも、れい也はじわりじわりと追い詰められる。
急かさないのは、少しでも長く感じていたいと思っているからだろうか。
口内に、舌に、最も強い脈動を。
優しげな触れ合いでも、熱は溜まっていく。
まるで、緩やかな行為をじれったく思うかのように、先端から欲がじわりと漏れ出していた。
百合川はすぐにそれを舐め取り、嚥下する。
「うぅ・・・」
飲み込むときに軽く吸われ、とんでもないものを与えてしまったと実感する。
だが、この昂りは開放させるしかおさまりがつかないのだ。
もっと欲しいと、そう訴えるかのように百合川の愛撫は早くなる。
舌の全体でれい也を舐め、液を出させようとする。
「っ・・・あ、あ・・・シキ・・・」
無意識の内に、百合川の下の名を呼ぶ。
それは、相手を信頼しきっていることの表れかもしれない。
そのとき突然、シキはれい也の先端を強く吸い上げる。
「あぁ・・・!」
急激な行為に、声が裏返る。
れい也の欲望が全て欲しい、自分の中に出してほしい。
シキは先端を舌先で弄り、早く注いでほしいとせがむ。
弱い部分を集中的に攻められ、体が震える。
長い間口内に含まれ、弄られていたものは限界が近い。
とめどない熱が、今も愛撫されている自身に集中する。
堪えようと思って留められるものではない。
シキが再びそれの先端を吸い上げた瞬間、強く、脈動した。
「あぁ、っ・・・シキ・・・っ、あ・・・!」
早い鼓動に合わせるように、昂りが最高潮に達した。
急激に競り上がり、放出される。
粘液質な白濁はシキの口内に広がり、卑猥な感触を与えていく。
その液体を、シキは顔をしかめることもなく飲み込んでいた。
一滴も取りこぼさないよう、その身を丁寧に舐める。
達した後のれい也にとっては軽い愛撫でも十分な刺激で、小さな悲鳴を漏らしていた。
やがて百合川は名残惜しそうに口を離し、喉を鳴らす。
ピークが過ぎ、れい也はぐったりと脱力した。
「シキ・・・満足したか・・・?」
シキは、まだ息が荒いれい也と見下ろし、心臓の辺りに手を置く。
早まっている心音を感じ、心地よさそうに目を細めていた。
れい也が落ち着かない内に、シキは首元へ耳を寄せる。
この鼓動は、自分の行為ゆえの高鳴りだと確認するように。
まるですがりつかれているような気がして、れい也はシキの背にそっと手を回す。
どこか温かみを感じるのは、自分の体温が高まっているからだろうか。
最初から最後まで、シキを回復させるためだけにやったこと。
けれど、なぜだろうか。
羞恥心がおさまってきた今、感じたことのない温かみに包まれているのは。
れい也は、すぐ傍にある緑の髪に、控えめに頬を寄せる。
自然と、そうしてみたいと思った。
れい也は、安らぎの中で静かに目を閉じた。